以前このブログで紹介した「織田信長という歴史 『信長記』の彼方へ」ですが昨日、読み終えました。感想をごく簡単に一言にまとめてしまうと「難しい、そして面白い!」そんな言葉になるでしょうか。

通販で購入したため到着したその本の厚さ(420ページ余)を見てビックリ!「ウ〜ンこれは読むのが大変そう。本棚に眠ったままになりそうだ・・・」と危惧していたんですが、読み始めたらこれが面白い。手にしてから10日かかりましたが無事完読。

単なる信長ファンで専門知識のない管理人ですが、この本の著者・金子拓氏が、太田牛一の著した『信長記』の成立過程・各書写の系統・分類やそれに関わった人々について、表や系図・図版などを交えながら“わかりやすく”書いてくださっている・・・はずなのですが、正直なところ知識の浅い私は途中から頭の中がゴチャゴチャになってしまいました。それでも、気にせず(いいのか?)読み進めるとやはり面白い。

『信長記』を手に入れた織田家はじめ池田家や前田家などその他多くの人々と写本の痕跡(すり消しや追加など※虚偽記載という意味ではありません)から見えるそれぞれの思惑。そして、信長の死後、約100年たったころ偉大なる祖・信長の事績を後世に伝えようと努めた織田長清のおもい、それに影響を与えた人々のことなど、『信長記』に関わるいろいろなことが書かれており、“信長の歴史”ではなく“信長記の歴史”が分かる内容でした。

おそらく研究者の方以外、多くの方が一度読んだだけでは理解できない内容かもしれませんが、そのページ数を気にせず、もう一度読んでみようと思わせる一冊だと思います。信長を好きな方、『信長記』に興味のある方にはおすすめです!


余談。
この本を読み終えふと浮かんだのが、自分が今まで読んでいた『信長記』は、どの系統の本なのだろう?といった疑問。
ちなみに私が読んでいたのは中川太古氏訳の現代語訳『信長公記』。このブログでかつて連載していた『織田信長史』でもその中心的資料として使わせていただいた書。その「はしがき」をあらためて読んでみると中川太古氏は現代語訳執筆の際、新人物往来社版『改訂 信長公記』(桑田忠親氏校注)と角川文庫版『信長公記』(奥野高広氏・岩沢愿彦氏校注)を参考にしたとのこと。

『織田信長という歴史』を参考にすると以下のような感じになるんでしょうか。
【新人物往来社版】は「建勲神社所蔵系」の「町田久成所蔵の写本」を活字化した『我自刊我書』を桑田忠親氏が読み下し校注を付し『戦国史料叢書』に収めた『信長記』(あれ?あってるのかな?これだけで混乱・汗)を『改訂 信長公記』としてまとめたもの。

【角川文庫版】は「建勲神社所蔵」の写本・陽明文庫所蔵の『信長公記』が底本の『信長記』

ということで、私が読んでいた現代語約『信長公記』(中川太古氏訳)は建勲神社所蔵系『信長記』ということになるようです。 (11/15:文書一部訂正)


最後に、連載していた『織田信長史』は、『信長記』を基本史料とした藤本正行氏の著書『信長の軍事学』や『信長記』などを資料とした谷口克広氏の多くの著書を参考・引用させてもらっていました。その他、参考にした多くの著書が『信長記』を参考にしており、太田牛一が『信長記』を記録してくれたおかげで信長の多くのエピソード(一部あげれば、信長のうつけ時代の恰好や父・信秀の葬儀での出来事、安土城内部や馬揃えの様子など)を現代の私たちが知ることが出来ます。

貴重な史料を残してくれた太田牛一に感謝!!


 ⇒ 織田信長という歴史 『信長記』の彼方へ (金子拓氏著/勉誠出版:3,990円(税込))


【関連リンク】
『信長記』(奈良女子大学「阪本龍門文庫善本電子画像集」)
 ・・・このサイトでは、岡山大学付属池田家文庫所蔵系の『信長記』原本の画像が掲載されており内容も閲覧可能です。

『信長公記』
 ・・・このサイトでは、町田久成所蔵本(現在、原本所在不明)の原文(PDF形式)の閲覧可能です。